
時は2033年、東京。
人間のあらゆる行動が小型チップ「P−SIM」に記録されるようになった情報管理社会において、感情を持つ高性能AIを搭載したヒューマノイドが誕生した。
その名も、「藤沢ユウ」。
警視庁サイバー犯罪対策課とともにテロ組織〈バスティーユの象〉を追う彼女は、あることがきっかけで私立高校「宝星学園」に潜入することに。
次第に明かされていくテロ組織とそのリーダーの正体。同時に彼女はある疑問を抱く。
感情は搭載されているのに、なぜそう感じるのか分からない。自分は一体何者なのか──と。
AIの一人称で描く、ハイスピードサイバーミステリ×ボーイミーツガール。
SF文壇においては、市民にIDが割り当てられ、管理される社会というのはもはや、手あかのついた題材ですらあります。
しかし、こと令和の時代において我々は、政府に強制されるわけでもなく自主的にスマートフォンを持ち、それぞれがSIMカードを持ってIDで管理される生活を送っている。文明の進歩とはなんと皮肉なことでしょう。
個人情報についてのセンシティブな議論が情報化社会の発達と共に語られるようになったこの現代に描かれたSFの世界は、社会主義と資本主義の目線で書かれたかつてのディストピアSFとは全く違った彩を持つことになります。
「404の私」はまさにそんな作品。
人間ではなく、高性能AIを持ったヒューマノイド・ユウの視点から見る世界は瑞々しく活気に富んでいて、青春小説の名手でもある著者の手腕が存分に発揮されます。
そして起こる事件、その裏で蠢く人間の想い。
「現代に描かれたサイバー・エンターテインメント」として語るべきところの多い作品。もちろん、純粋にエンタメとしても読みごたえ抜群の一作です。
404の私
作:乙島紅
長篇(173,060文字)
掲載サイト:カクヨム
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