僕は知識を食べる、君たちは人を食べる、彼は友を。食べたかった。――本屋では買えない、文化人類学SFの傑作

北阿古霜帝國民族誌《エッタ・イグニブラ・ユト・ザデュイラル・ゼネプブイサリィ》(雨藤フラシ) - カクヨム
僕は知識を食べる、君たちは人を食べる、彼は友を。食べたかった。

60年前。文化人類学を志す青年、イオは人食いの有角人「魔族」実地調査のため、古霜帝国〝ザデュイラル〟へ渡った。
孫娘に語って聞かせるのは、カズスムクとタミーラク、一番食べたい相手を食べられない食人鬼の物語。
異世界異文化交流カニバリズムファンタジー!

とんでもない作品を紹介できる喜びに震えながらこの文章を書きます。

未昔堂フューチャーズはこの作品を紹介するためにあったと言ってもいいかもしれません。

本作品のジャンルは、カクヨムでは「異世界ファンタジー」となっています。

某SFコンテストで落選したというのも、そのあたりが原因なのかもしれません。

ですが……これは紛れもなくSF。それも、極めて高度な文化人類学SFです

取り扱われているのは、「人肉食」、それも同族を食す文化という、極めてボーダーな領域。商業出版で取り扱うことができるかと言われると、難しいかもしれません。

ですがこの作品で描かれるそれは、タブーの領域を面白おかしく描いたホラー・サスペンスや、露悪趣味を強く刺激する成年向け作品のそれではありません

まるで歴史上に実在した土地を取材してきたかのような、恐ろしいほどの緻密さで描かれる「食人鬼」の社会は、「そのような種族が文明を築き、安定した社会を築き上げるためにはどうあるべきか?」という問いの下に構築されます。

そしてそれは、自らの「食人」という性質に向き合い、その宿命を宗教という物語に託し、豊かな文化として築き上げた世界を、そこに生きる人々の哀しさと共に描き出しています。

それは取りも直さず、「死」というものと向き合って来た現実の人間の歴史と、その中に生きた名もなき人々の悲哀と重なるもの。

かつて隆盛を極めたスペースオペラの醍醐味のひとつは、異なる生態系、異なる文化や常識を持つ数々の惑星への旅と、そこでの体験でした。

「スター・ウォーズ」でもこの辺りはかなり意識的に描かれ、異星の種族たちが催す祭礼のシーンなどはシリーズの定番演出となっています。

それは好奇心を満たし非日常を味わう観光からさらに踏み込み、自分たちの生きる世界を俯瞰する鏡としての機能を持ちます。

そう言った意味で、この「ザデュイラル」の物語は、まるで人間の内面や魂までも映し出してしまう、鋭利な鏡のような輝きで読者を照らすものです。

本当に、これが無料でWeb上に、ひっそりと転がっていていいものでしょうか?

ぜひとも、広く世に知られてい欲しい作品です。

※注意!

●本作の人肉食は「合法下で合意のもと行われる架空の文化習俗」であり、現実の犯罪行為を推奨するものではありません。
●本作の主眼は猟奇描写ではなく、それのみを期待すると物足りない可能性があります。しかし、主題的に必要と判断した上で、ごく一部エピソードに殺人・人間の解体・人肉の調理および食事の詳細な描写を行います。該当エピソード公開時に明言しますので、自衛をお願いいたします。
●直接の猟奇描写がなくとも、本作は全編に渡って「人間が食肉目的で殺害される文化と社会」が表現されます。舞台設定に不快感・恐怖を覚える方には閲覧を推奨いたしかねます。
●また、人肉・人血(特に生)との接触はプリオン異常、各種肝炎、皮膚疾患、角膜炎、食中毒の原因になります。作中に登場する食人者はミラクルファンタジー免疫の持ち主に設定されているので、決して「人肉食は人体に安全」と示すものではないことご了承下さい。

※編者注:恐ろしく読みやすく、また優しい文体で客観的に描かれるため、それほどショッキングには感じないかもしれません。残虐シーンがそれほど多いわけでもありません。
 それでも、かなりカロリーの高い作品でもあり、人によっては極めて不快に思うかもしれません。

北阿古霜帝國民族誌
《エッタ・イグニブラ・ユト・ザデュイラル・ゼネプブイサリィ》

作:富士普楽
長篇(179,257文字)
掲載サイト:カクヨム

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