「カクヨム」初期からのユーザーであれば、もはやこの作品を今さら紹介されるまでもないでしょう。
Web小説黎明期の傑作SFとして多くの読者を惹き付け、吉田健一氏のイラストを添えて富士見L文庫から書籍化を果たした作品です。
それをわざわざ当「未昔堂」で取り上げるのには理由があります。
それはこの作品が元々、3部構成の作品であり、書籍として発売されたのはその第一部に過ぎないからです。
幼いころに出会った外国の女の子ユーリヤ。
第一部:『ひとりぼっちのソユーズ』
彼女は僕にとって特別な女の子で、僕の女王様だった。
彼女は僕のことを『スプートニク』と呼び、僕に色々なことを教えてくれた。宇宙のこと、月のこと、アームストロングっていう嘘っぱちのこと。彼女はいつも『北方四島』を賭けた。いつしか僕たちはばらばらになり、彼女を一人ぼっちにしてしまった。
だから、あの月の綺麗な夜――僕は思ったんだ。
僕は月に向うんだって。君を月に連れて行くために。君をひとりぼっちにしないために。
月で生まれた最初の女の子ソーネチカ。彼女は人類初の『ルナリアン』で、生まれながらに特別で――そして、とても複雑な女の子だった。
第二部:『月のプリンセス』
ソーネチカは月のお姫さまであり、いずれ月の女王になることを運命づけられていた。
月の彼女の庭であり城。
そして彼女の海だった。
そんなソーネチカは、いつしか月から見える青い星を焦がれるようになった。手を伸ばし、その場所に辿りつきたいと思うにようになっていた。
そして第三部――月と地球と過去と未来を舞台に、想いが繋がっていく集大成。
言うまでもなく、SFは「サイエンス・フィクション」です。科学技術や哲学的考察を軸に、現代から地続きの世界を描くのがその在り方とされます。
ですが、ただ技術や社会を描くだけのものではなく、そこに介在する人々の想いと、束ねられた想いがある方向へ向かう力を獲得する様こそ、SFの本領であるともいえます。
「ひとりぼっちのソユーズ」書籍版は富士見L文庫から出たように、ボーイ・ミーツ・ガール要素や青春文学として受容された側面もあります。
しかし――第二部、三部を読めば、これが骨太のSFであることがわかり、そのSF要素がボーイ・ミーツ・ガールを大きなストーリーとして回収している構造に心を持っていかれます。
カクヨムで多くの人が夢中になった本作の「想い」は、第二部、そして第三部を経て大きな流れとなっていくのです。
書籍だけなら未完ですが、Webまで含めて次元を超え、大きなひとつの物語となっていく本作を、どうしたら作品として後世に残せるだろうか――
そんな想いで今、私はこの記事を書いています。
ひとりぼっちのソユーズ
作:七瀬夏扉
長編(201,043字)
掲載サイト:カクヨム
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